一人歩きする応召義務・・・応召義務ってそういうモンじゃ,ないよ.

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医師法第19条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

m3等の掲示板をみると,「応召義務」という言葉が出てくるが,これはいったいどういうことか,条文を自分なりに調べてみた.「応召義務」という言葉を聞いた事がある人は多いと思うが,実際のこの条文を初めて見る方も多いのではなかろうか.私も初めて見た.

 これはどのようなことなのか.私は残念ながら法律の専門家ではないし,あやふやなところも沢山ある.だが,法律の専門家でもこの条文の解釈は多々あるものだそうである.

 まず,ある程度,ハッキリしていることを述べ,現実に起こりうること,あるいは,皆さんが直面している様なことに対して後半は私なりの解釈を述べる.


○「応召義務」とはあるが,義務に違反した場合どうなるかの,罰則規定は示されていない.つまり,ない.したがって,「応召義務」はあくまでも努力目標ということになる.故に,刑事罰に問われることはないが,「民事裁判」でどのように運用されていくのか,特に「応召義務」が適応された判例を私は知らない.現実的に,これは時代と共に変遷するものであろう.

○応召義務の「義務」はいつ発生するのか

 「義務」は,「診療した場合」=「契約した場合」に発生するものである.

 

1)国外でもその義務があるかという問題(解釈はバラバラであろう.国外で日本の医師免許は使えない)

2)そもそも診療体制にない医師には応招義務はなく、たとえば機内での診療行為は事務管理にあたると考えられる.(事務管理とは何か,著者には分からない.下記に記事を追加)

3)交通事故などの自由診療でも応招義務,この場合は診断書記載義務などはあるとした判例はある.

*うむ・・・なにやら分かったような分からないような,というところでしょうか.あまり現実的でないところで議論されているな,と思われるでしょう.私もそう思います.しかし,私の調べたところではここまでです.

事務管理の特殊類型

* 緊急事務管理

本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、管理者は悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない(698条)。

フリー百科事典 Wikipedia より 事務管理

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8B%E5%8B%99%E7%AE%A1%E7%90%86


現実に即した状況での「応召義務」を考えてみましょう.これはあくまでも私の解釈であることを申し上げておく.

 実際に,我々が昼間に診察室で自分の前に座った患者にいきなり「診療しない」と宣言することはない.

実際に起こりうるのは

1)夜間や休日の呼び出し

2)粗暴な言動の患者

・・・このようなことに対してどうするか,というのが肝要ですね.それに対して,私なりの解釈を述べていきます.皆様も改めて考えて頂ければ,益するところも大きいのではないでしょうか.


1)夜間や休日の呼び出し

 これをお読みになっているドクターの皆さんは,気高い精神を持ち,困っている人がいるなら助けるぞ,と思っておられると思うが,現在,直面している問題は,夜間や休日の呼び出しが頻繁に起こり,疲弊の極限まできてしまっているという事.

 よって,呼び出しを,「応召義務」に違反しないでかわすにはどうしたらよいか.これを述べたい.「診療体制にない医師には応召義務はない」わけですから,「体の具合が悪い」ということで,呼び出しに応じなくてもよろしいと私は考えます.

 ただ,強調しておきたいのは世間体の良い言い訳を考えなければなりません.「酔っぱらっていた」というのは世間体が悪い.体の具合が悪い,というのが一番良い.医師というのはとにかく注目されている.パッシングを受けやすいし,余計なところでパッシングを受ける事は避けるよう工夫する事が必要である.

 「具合が悪いと言うけど,○○で遊んでいたじゃないか.家にいなかったじゃないか」と言われたら,「プライバシーをいろいろ詮索される覚えはない」と,ゴルゴ13のように突っぱねればよろしい.

 また,夜間や休日に来て我が儘放題言う患者も多い.子供を連れてきて「小児科医に診てもらいたい」という者.少なくても,「応召義務」はそこまで求めていない.夜間の担当の医師が診て,それで充分,という治療が出来るのであればそれでよい.患者に言われるがままに,小児科医や産婦人科医や主治医やらを呼んでいたら,あっという間に疲弊して,パンクしてしまう.もちろん,ぐったりして,見るからに死にそうな子供がやってきたら,小児科医でも何でも呼んで治療に当たる事は言うまでもないが,ちょっと熱っぽい,くらいで,小児科医が呼ばれていたらたまったものではない.

 まあ,ここでは,「応召義務」はそこまで求めていない,ということは強調しておく.とにかく,このような問題は病院全体,あるいは,小児科医,産婦人科医など,その専門科のドクターがどういう状況にあるか,どのような意向であるかを日頃話をしておく事も大事である.

 

2)粗暴な言動の患者

 このことは,当ホームページの「患者の馬鹿げた要求には,我々医師は応えることはできないし,その必要もない」に記した.

 「応召義務」は,そのような患者にまで対応しなければならないとは定めてはいない,というより,そんな患者に対応できない.「裁判するぞー」などと口走る患者もいる.「医療は完全ではありません.完全な医療をお求めなら他へどうぞ」と言うしかない.患者は,「完璧な医療」を求めて200kmでも300kmでも離れた病院を探して自分で行くであろう.それでよい.

 あと,医療費を払わない事が常態化している患者というのも困ったものだが,このことに関しては「日経メディカル」に載っていた.それを参考にされたい.


m3 などの,医師専用の掲示板を診ていると,この「応召義務」というのを金科玉条のように考えていて,がんじがらめにされてしまっているような意見も目につくので本稿で説明した.


【追加記事】三重大学医学部 医療倫理に関するページより
        http://www.medic.mie-u.ac.jp/medicalethics/doctor/argument1.html

医師の応召義務

医師法第19条 【医師の応召義務】
 診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

正当な事由とは(旧厚生省通達:昭和30年):
 正当な事由がある場合とは、医師の不在または病気等により、事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に疲労の程度をもって、診療を拒絶することは、医師法第19条違反を構成する。

 以前の医師法には、正当な事由なしに拒んだ場合には罰則規定があったそうですが、現在の医師法には、罰則規定はありません

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論点・問題点
正当な事由とは
 そもそもは、以前の診療行為に対する費用を払っていないなどの経済的な理由で診療を拒否してはいけないという趣旨だったようです。

 昭和30年の国民皆保険により、この経済的事由による診療拒否がなくなることが期待されたため、診療拒否について医師法にあった罰則規定が廃止されています。

 当該医療機関が単独の医師で、すでに他患者の診療中、手術中は、実質的に診療ができない状態にあることから、診療拒否の理由になる判例があります。
 複数の医療機関がある地域において、当番制の急患医療が整備されていて、そちらを受診するように、患者に指示することは、違反ではないといわれています。
 飲酒により診療できない等 は、無医村における危急の場合には認められないかもしれません。

 事業所等に付随する医療機関において、職員でないものの受診は、緊急な状態の場合に、拒否できないとされています。

 専門医ではないは、危急の場合には、正当な事由にあたらない可能性もあります。というのは、歯科領域で、麻酔剤のショックに関して、歯科治療を超えた、救急蘇生措置の施行の有無が問われた事例があり、歯科医師の医療研修・救急医療研修が行われるようになりました。つまり、その地域にその分野に関する専門医がなく、また、患者が緊急の処置を要する場合、遠くの医療機関へ搬送する時間的余裕がない場合には、応召を拒否できない可能性があります。

【コメント】応召義務を変更する必要はあるが,それに手を付けるのはいろいろと意見が出そうで,時間もかかりそう.

 これだけ,未収金が出ていると,救急医療なんて成り立たないでしょ.未収金が膨らむから,というのは救急を辞める大義名分になる.

<未収金>うわさ拡大し5770万円に 浜松の病院 10月11日

 浜松市中区の総合病院「県西部浜松医療センター」(脇慎治院長、606床)で06年度、患者からの未収金が5770万円に上り、同年度末の累積債権が9189万円にもなっている。市内では「公的な病院だから医療費を払わなくても受診できる」とのうわさが広まっており、それが一因という。市から運営を委託されている市医療公社は「一部の不払い者のせいで医療サービスに影響が出かねず、ゆゆしき事態だ。市の債権回収対策課と連携することも検討しており、悪質なケースには強い態度で臨む」としている。

 病院は市が設置しており、市健康医療部の担当者によると、数年前から「あの病院はお金を払わなくても平気」「昼より夜に行った方がいい」などといううわさが流れ始めた。特に06年から激しくなったといい、会計処理のできない夜間や救急での診療に対する支払いを督促しても「どうせ税金で何とかなるだろう」などと拒否され、中には出産で入院中にこっそり抜け出して行方不明になる人もいるという。

 未収金は、04年度3200万円、05年度3850万円と増え続け、06年度5770万円に。07年度も減る気配はないという。

 明らかになっている06年度の累計は、決算時点で時効になっていない04〜06年度分の患者593人分で、1人当たり約15万5000円。外国人とみられる患者も72人おり、医療費が高額になりやすい産婦人科の未収が目立つという。

 同病院の年間収入規模は06年度は124億円で、直ちに経営に支障が出るわけではないが、市医療公社は「このまま増えれば、必要な資材が買えないだけでなく、職員の給与にも響きかねない。回収も強化するが、受診者のモラルにも訴えたい」としている。医師法は、医師は訪れた患者の診察を原則断れないと定めており「持ち合わせがない」と言う患者がいた場合はクレジットカードがあるかを聞いてカード払いの導入も検討している。【竹地広憲】

 ▽厚生労働省「医療機関の未収金問題に関する検討会」委員、山崎学・日本精神科病院協会副会長の話 給食費や保育料と同様に、医療費も確信的に払わない人が多い。こうしたうわさはすぐに広まりやすいと思う。個々の病院だけでは解決しないので、金を払わない人にも診療する義務のある現在の制度を含め、法律などの見直しを国に訴えたい。

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