東京都北区の東十条病院に何が起こったのか?
「災害拠点」東十条病院が新患・救急受け入れ停止…来月末で全科休止

 東京都北区の総合病院「東十条病院」(馬場操院長、350床)が医師の確保ができなくなったとして、27日に突然、新規の患者や救急搬送の受け入れを休止していたことがわかった。

 同病院は10月31日を最後に全科で診療をやめるとしている。同病院の常勤医は9割が日本大学医学部の派遣医師で、病院側は「日大が医師を引き揚げてしまったため、運営が困難になった」と説明している。

 多くの民間病院が大学の医学部に人材供給を頼る一方、大学側の医師不足が深刻化する中で起きた異常事態に、医療関係者は大きな衝撃を受けている。

 東十条病院は医療法人社団りんご会が1991年6月に開業した。地上7階、地下2階建てで、内科、外科、整形外科、産婦人科、小児科など16の診療科があり、北区内では最もベッド数が多い。毎月の外来患者は1万5000人程度に上り、都の災害拠点病院にも指定されている。

 同病院は27日、「常勤医師を確保することが難しくなり、このままでは患者さまに十分な対応ができない」とする張り紙を玄関前に掲示した。新患はこの日から受け付けず、10月31日を最後に全科で診療をやめるという内容で、通院患者に対しては、別の張り紙で、今後は他の病院に紹介するための診察しかできないと告知した。一方、現在61人いる入院患者については、全員分の転院先を確保したとしている。

 患者や家族の間で騒ぎになり、区からの連絡で初めて事態を知った都は28日、医療安全課の職員を病院に派遣、事情を聞いた。

 同病院は常勤医30人体制で運営され、このうち28人が日大からの派遣だった。同病院の佐藤一幸事務長によると、日大側から今年6月、「内科を中心に大学病院の医師が足りないので派遣を中止したい」との申し出があり、その後、他の診療科についても派遣中止の申し出が続いた。

 その結果、8人が9月末までに退職、さらに来年3月までに10人が退職することが決まったという。佐藤事務長は「代わりの医師を探したが見つからず、正常に運営できる見通しが立たなくなった」と話している。

 日大医学部の関係者によると、2004年度に新卒医師の臨床研修が必修化されたことで民間病院で研修を受ける医師が増えたが、大学で研修する医師は激減した。このため、大学の人手不足が深刻になり、他の病院に派遣する医師のやり繰りがつかなくなったという。

 東十条病院は、同大の医師派遣先の中でも中核的な病院の一つとして位置づけられており、関係者は「医師を一斉に引き揚げざるを得ないとはショックだ」と話した。

(2007年9月29日 読売新聞)

【コメント】

 東京都内の災害外傷の拠点病院が吹っ飛んだ,と言う話だ.

 もはや,当たり前であるが,都会でも医療はどんどん崩壊しているということ.個人的に私はこの記事に少なからず驚き,実際にこのように記事にしているわけだが,世の中はあまり驚いていないように思う.実際,上記の記事を見ても雰囲気として,「たんたん」としている.世間でも,今や病院崩壊位当然の事で,それが東京都内で起こったからと言って,驚く事ではないと言う捉え方なのだろうか.そのことにむしろ私は驚いている.

 平成16年に旭川医大の小児科や産婦人科が,羽幌町立病院から引き上げたが,このときの方が驚きをもって道内はおろか,日本国内に報道された事を覚えている.臨床研修医制度が始まるまで,各大学の医局は競って,ジッツの拡大をしていた.北海道の隅々の病院,日本の隅々の病院をジッツに組み入れようと狂奔していたのである.その様な時代に,旭川医大が,羽幌のジッツを手放したものだから,大学関係者も驚いたし,医師の引き揚げなど当時の日本人はあまり経験していなかったものだから,本当に驚いたのだろう.事実,羽幌は留萌と稚内の中間地点にある,日本海に面した小さな漁村であるが,そこに勤務する常勤医は一貫して増えていった.私の出身の医局でも当時,2人の常勤医を派遣していた.

 昨年は,江別市立病院が崩壊した.札幌の隣町にあり,札幌に住んでこの病院に通う医師や職員も多かったのであるが,その病院が機能不全に陥ったという話は,日本全国に驚きを持って伝えられた.私も驚いて,何本か記事をしたため,このホームページに載せている.

 それからわずか一年だ.東京都内の病院が丸ごと吹っ飛んだ.

 新聞によると,日本大学の中核的なジッツだったようだ.

 今年(平成20年4月からの)のマッチングの結果を調べてみた.日本大学は関東にあり,人気はある.マッチング率ほぼ100%だ.(全国の大学のマッチ状況

 マッチ率がほとんど50%以下のぼろ負け状態の,北海道,東北の大学から見ると,マッチ率100%,92.3%の日本大学は勝ち組と言って良い.

 ところが,日本大学の中核病院の東十条病院を維持できないと言う.

 とすれば,きっと,日本大学の中の科の偏在が主原因なのだろうか.つまり,人数は多くてもメジャー科にほとんど入らず,私の予想であるが,マイナーばかりに入局者が集まっている状態なのだろうか.

 東十条病院のような規模の大きい病院になると,外科系ならまず麻酔科医が居ないと話にならない.つまり,麻酔科医がいないと,外科系は全科吹っ飛ぶ事になる.

 また,内科は極めて重要だ.内科に力と経験のあるベテランの内科医ひとりいれば,内科全体がまとまり機能する.また,内科が機能していれば病院は機能するが,逆に,その様なベテランの先生がいないと,内科自体が瓦解するし,ひいては病院全体が瓦解する.私は外科系の医師なので,内科医,麻酔科医のありがたみは痛いほど分かっている.麻酔科医が居なければ外科医は手術ができないし,やっぱり,全身管理というか,高齢者が多いので,糖尿病の人,心臓病院の人の手術をするときなどは,病院内で内科にその様な糖尿病や心臓病を管理してもらわなければならない.それでなければ仕事自体が出来ない.

 マイナー科の医師が何人居ようともあまり関係がない.

 東十条のことは私は部外者なのでよく分からないが,私の推測では,要の科である内科と麻酔科が瓦解したのではないだろうか.そうとすれば,病院としてはやっていけないので,全科休診というのも賢明な選択肢だろう.そうしないと,赤字がどんどん膨らむ事になる.

 あるいは,私立の病院なので,経営母体と日大の折り合いが悪くなったのだろうか.そのような内紛的なものか.

 どちらにしても,東京都内の北区で大きな穴が開いたのは間違いなさそうだ.

 【追:北海道通信】そろそろ人事に関する話が医局で出る頃だ.医局を出た私の耳にもポツラポツラと入ってくる.北海道でもまたまたあちこちで来年の撤退の地鳴りが響きだしている.東京に同情している余裕はない.

【参考記事】江別の時はどうであったか

全内科医が辞職 江別市立病院 過酷勤務「燃え尽きた」(18 / 9/10)

江別とはどういう町か.また,江別市立病院とは 平成18年9月13日 記

内科が崩れるとき,基幹病院が壊滅する(江別市立病院) 平成18年9月12日 

札幌医大にも派遣を断られた江別市立病院・・・が,まだ頑迷に,救急外来を手放さないとは!(18 / 9/22)

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