臨床研修医制度の問題点  近畿医大 浜西教授 ご指摘

近畿医大 整形外科教授 浜西先生のホームページより
  http://www.med.kindai.ac.jp/ortho/hamanishi%20page/index.html
 

 近畿医大 整形外科の浜西教授が,ある新聞に対して臨床研修医制度の問題点を述べており,私,大いに感じるところがあったのでご紹介いたします.

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タイトル:新臨床研修医制度のもたらしたもの

---新聞様
 近畿大学整形外科主任教授の浜西千秋と申します。
 御紙の一昨日の記事について聞き、それを今日手に入れて読ませて頂きました。

 『研修医戻らず細る地方大学病院』という特集であります。よく調べられていると思います。
 さて細って行くのは大都会の私立大学も同様であります。

 私が今日メールを差し上げたのは新臨牀研修制度のもたらそうとしているものは、もはや大学vs一般病院、都会vs地方などという構図、その打開策は研修プラグラムが魅力的な病院こそ研修医を集める、地方はせめて外国留学させるなど待遇をよくする位しか引き止められない、といった単純な問題ではないということを御理解頂きたいと思ったからです。

 御紙は研修第一期生がこの4月以降、どのような専門科を選択したかを調査されたでしょうか。調査されれば大学に残るとか戻るとかの問題ではないことにお気付きになられることと思います。

 【整形外科3割強の減少,産婦人科は半減,眼科は2割減少,脳外科は75%減少】

 私は整形外科医ですので研修医が大体の進路をきめる2月末に全国の83大学医局にアンケートを行いました。大学医局とそれまで関連病院であった大病院が独自に専攻医として雇用した数を問い合わせたものです。計432名と言う数でした。

 今日現在、日本整形外科学会で新入会の手続きを済ませたものは393名ですので、430名を上回る事はないかもしれません。だとするとこれまでの入会者数は2001年683名、2002年648名、2003年621名でしたから3割以上の減少となります。

 昨日、産婦人科学教授を介して産婦人科学会に問い合わせましたら今年の新入会員は現在230名程度で2001年からの451、430、420名に比較すると半減しています。

 眼科では今年の大学とその関連病院の入局者は315名、それ以外の施設に入った者も 合計して355名で、以前は平均460名位でしたので2割の減少ということになります。


 そして脳外科学会では本年一月から現在迄なんと計60名の新入会しかなく、しかもそれには卒後1年目、2年目の研修会員も含まれているそうです。3年目の医師がうち半数の30名とすればそれまで2000年より229、226、218名の新入会者がありましたから約八分の一まで激減したようです。

 大所帯の外科学会の数はさすがに調べておりません。
これらの結果を御紙の方々はどのようにお考えになるでしょうか。
このような傾向が続くと、近い将来どのよう医療状況になるか推測していただきたいと存じます。
 研修医が何科を専攻としたか是非、御紙で調査して頂きたいと存じます。

【研修医はどのような考えで自分の専門とする科を選んだか】

第一期研修医の選択動向に関して私見を述べさせていただきます。

(1) 彼等が敬遠したのはかなりの技術的修練が今後、必要とされる科です。(将来メスをふるえる医師はもう不要だと思われるでしょうか。)

(2) 彼等が敬遠したのは、即、命を扱う科です。(近畿大学では内科入局者は多いのですが白血病のようにすぐに様態が急変し、生死ぎりぎりの状況をよく扱う血液内科にはゼロです)

(3) 彼等が敬遠したのは手術や治療で緊張を要求されストレスの多い(指導医が疲れ果てている)科です。

(4) 彼等が敬遠したのは手術や治療の結果が医療トラブルとしてマスコミにとりあげられやすい科です。

(5) 逆に彼等が選んだのは修練が不要で、一人前の医者らしい顔が早くできる科です。(どのような科か御推測下さい)

(6)彼等が選んだのは早く一人前に作り上げてくれそうな、患者が多くて何でもやらせてくれるらしい(医師が少ないので当然の)病院です。一昨日の記事にも出ていました『腕を磨くには一般病院の方が良い』という選択です。彼は何科を選んだのでしょうか。患者で腕を磨くのはまさか手術技術ではないことを願います。

(7) 同じ科であれば彼等が選ぶのは大きな関連病院を沢山持っている大都会の医局です。これまでにも大医局集中はありましたがその傾向は顕著です。整形外科では入局者数上位13医局に45%が集中しています。

(8)同じ科であれば彼等が選ぶのは待遇のよい病院です。これまで内容が悪くて大学関連病院になれなかったクラスの病院から、驚くような高給が卒後3年目の医師に提示されています。研修医にとって前代未聞のこれほどの誘惑があるでしょうか。新制度で問題の多かった病院でも金さえ出せば若い医師がいくらでも雇える道が開かれたのです。

 新制度で卒業生は全てなんとか自分で研修先を探すようにとマッチングを強いられました。その結果半数以上は大学医局関連研修から離れます。これには大学院での基礎研究も含まれますので日本の医学研究の大半を支えていた、医師による世界的研究は消えてゆくだろうことは御推測いただけると思います。

 もちろん新制度は研究のみならず医学教育の荒廃をも間違いなく招きます。
 医学生の教育に必須の解剖、生理、薬理、病理など基礎系の教室に何名入局したかお調べ頂きたいと存じます。
 7000名の研修医の中でおそらく殆どいないのではと推測します。これから医学生の教育は医師国家試験予備校の教師に依頼するしかない大学が増えて行くかもしれません。

 関東の私大の調査でわかった事は、本院の医局には入局者がいないが、分院の医局には結構いるということです。これは何を示しているのでしょうか。本院スタッフには学生の教育義務があるのに、分院にはないからです。また臨牀に専念できる分院の方が待遇が良い大学もあります。これでは本院には絶対に来ません。これも医学教育の荒廃につながるでしょう。

 一旦大学を離れた研修医が大学関連研修に戻る事はおそらくあり得ません。待遇が違い過ぎます。卒後2年で結構稼げる、これまでは考えられなかった待遇に味をしめた研修医は、その生活を維持できる病院を探すのが当然です。もし病院が一杯になって雇ってくれる病院がなければどうするでしょう。30数社ある民間斡旋業者に登録してその斡旋に依存するかもしれません。短期研修だけ経験し、見よう見まねで、病院の要望のままに何科の医師にでもなりかねない大量の医師群の出現は国民にとって危険ではないでしょうか。
 このあたりも調査していただければ大変な事情に気付かれると思います。

【結論】

 結論を申しますと、新臨牀研修制度は『医師としての人格育成や初期診療能力の修得』が目的であると謳っていますが、結局,研修医の功利性、利己性、端的に言えば欲望を解き放った制度でした。これまでのストレート入局時代には夢を感じ、面白そうだとか、自分にあっているとか、生き甲斐を感じる科にそのまま飛び込んで行けました。ところが2年間の初期研修と言うブランクの間に夢がしぼんでしまい、結局選ぶ基準が、早く一人前になれる科と楽さ加減と待遇だけになってしまいました。彼等に同情こそすれ非難する事は出来ません。

『地方大学・病院は自治体と協力しながら智恵を絞る必要がある』という一文はいかにも新制度を肯定した上での地方突き放しにきこえます。地方に住んでこれから医療過疎に直面してゆく国民を代弁しているとは思い難いものがあります。そんなことで一旦解き放たれた医師達の欲望が変えられるとお思いなのでしょうか。沖縄の例は模範例なのでしょうか。

 医局の人事は見事に破綻しました。これはマスコミや厚労省の狙った通りでしょうが、あまりにも早く実現し、そしていびつな形で、まず患者さんや地方の国民や弱者に影響しました。こうなった事態は記事を書いておられておかしいと思われないのでしょうか。これまでの御紙が主張してこられた医局解体は、その担って来た役割も否定するわけですから、『負の連鎖』を招くのは当然ですが、それは予想もされていなかったのでしょうか。

 長文、乱文になりました。ご意見、お問い合わせ等あれば何でもお答えするつもりでおります。

 御紙の今後の正しい真剣な論調を期待しております。

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