○内科が崩れるとき,地域の基幹病院が壊滅する
 

北海道・江別市立病院:常勤医退職問題 市議会厚生常任委で追及


江別市立病院

経緯を説明する江別市長


 江別市立病院(同市若草町)で内科系の常勤医7人全員が9月末までに退職、さらに産婦人科の常勤医1人も15日付での転勤が決まっている問題が7日の市議会厚生常任委員会で取り上げられた。
 委員からは「なぜ内科医全員がやめることになったか」「危機管理はできなかったか」などと、事務局幹部の責任を追及する質問が相次いだ。

 池田和司事務長は
「併設する夜間急病診療所(夜診)の弊害が出た。内科医が疲弊したと考えられる」と答え、労働条件の悪化が事態を招いたとの認識を改めて示した。

 内科系の外来診療は10月から、非常勤の医師を集めて続けられるが、入院6病棟のうち内科の2病棟は休止。看護師など看護職員は残る4病棟に配属されるが、非常勤の看護助手28人のうち5人の契約は更新されない。

 また産婦人科の常勤医転勤については、池田事務長は「欠員補充を(転勤医師の派遣元だった)北大の産科医局に要請しており、結果を待っているところだ」などと説明した。【小崎学】

                        平成18年9月8日 毎日新聞 北海道版


●解析●

 江別市立病院のような中核病院では,内科こそが病院の要となる.

 病院の要とは,つまり,産婦人科や整形外科がなくても,病院としては十分格好は付くし,機能もするものである.もちろん,産婦人科や整形がなくなると,病院としては売り上げが落ちて,困るのだが,病院としては機能できる.

 しかし,逆に内科がなくなると,整形外科や産婦人科があっても病院としては機能できない.

 具体的に言うと,お年寄りが転んで骨折をしたとしよう.お年寄りというのは,心臓病,高血圧,糖尿病などいろいろな病気を持っているもので,その薬を飲んでいる場合も多い.病院に入院するからには,入院中も継続して,心臓病,高血圧などの持病の管理をする必要があるし,

 また,手術に関しても,手術の可否や危険性を,手術を担当する科の医師(この例では,整形外科)は,麻酔科,内科を交えて話し合わなければならない.しかし,内科医が居なければこのようなことができなくなる.したがって,このような症例に対しての手術はこの病院ではできなくなる.しかし,お年寄りでこのような人は珍しくないので,かなり手術件数が減ることになる.つまり,思うように機能できなくなる,と言うことを意味するのである.

 つまり,内科こそが,病院の要であると言っても,言い過ぎではない.

 内科医大量辞職は,江別が初めてではなく,以前,舞鶴市民病院で起こった事がある.内科医が一斉に辞めてしまい,病院は瞬時に機能不全に陥った.しばらくして,舞鶴市民病院は,大手の病院グループに転売される予定となった(平成18年9月現在).

 江別市立病院も内科医が大量に辞職することになるが,その穴はとても埋められそうにない.このような病院に居ても,まともな仕事が出来ない.他の科も,徐々に医師が減っていくであろう.

 新聞によると,まず,産婦人科が撤退したようだ.私に言わせれば当然だ.なぜか.

 江別市立病院の常勤医はほとんど医局から派遣されている.今,医局には江別市立に勤めている内科以外の医師から,「早く辞めたい.内科医がいなくて仕事にならない」という意見が強く寄せられているはずだ.医局の医師にとって,修練こそがもっとも大事なのである.その修練に支障がある病院は医局員にとってまったく魅力がない.そんな病院に勤務していることは医局に所属する医師にとって単なる時間の無駄なのである.医局にいる医師とはそのようなまじめで熱心な人種である.

 江別市の意向に反して,これから他科もこれに続くであろう.江別市立病院はこのままでは,すぐに存続さえ危ぶまれる状況に陥るだろう.

 しかし,どこの病院も江別のことを他山の石にはできない.特に,医局から医師の派遣を受けている病院はである.研修医制度が平成16年から始まり,医局の医師派遣能力は大きく低下した.しかし,この低落は始まったばかりである.あと,5年もすれば,医局の医師派遣能力は,激減し,今の20%ほどになる.これは間違いのないことである.

 今の内から,病院は,医師を集める,ないしは,医師集めのノウハウをしかりと培っておく必要がある. 

 

「赤字14億円」江別市立病院
江別市立病院の内科常勤医12人が全員退職した影響で2006年度は約14億2000万円の大幅な赤字が見込まれると江別市議会厚生常任委員会で報告されました。既にお知らせしましたように、今月から常勤医1人を確保、出張医11人を加えた計12人で内科の外来診療に当たっています。 (2006/11/28)

 

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