医師不足の淵源 その2 
  厚生労働省による病院の人的規制強化と「名義貸し」の全面禁止
原因1:女子医学生の増加(クリック)
原因2:厚生労働省による病院の人的規制強化と「名義貸し」の全面禁止
原因3:蛇足的な流れ・・・薬屋の接待の禁止,アルバイトの禁止
      まるで魅力のなくなった公的基幹病院勤務
原因4:「目こぼし」がなくなった.遠慮なき医者たたきの末に
原因5:訴訟,そして,医師敗訴の頻発
原因6:日本の医療システムへの原爆投下・・・臨床研修医制度の導入

激烈な「清水運動」の始まり 

 あえて,「清水運動」という新しい言葉を作ってみた.「清水に魚住まず」からとったものである.「名義貸しの禁止」「薬屋の接待.公的病院に勤務する医師のアルバイト禁止」など,医師に対して世間,マスコミが口うるさくいろいろ言うようになった.このことが,また,医師不足の原因となっている訳である.

 このように,今まで法律に抵触するかしないのか,ファジーな部分にマスコミ,世間が思いっきり切り込んできて,その様な部分が消滅した.

 これには,法律に確かに抵触しているものもあれば,道徳的,観念的な問題もある.しかし,人の命を扱う,病院と医師に一点の無謬なきものを求め,そのような,ファジーなことを徹底的に糾弾したのが,この「清水運動」である.

原因2:厚生労働省による病院の人的規制強化と「名義貸し」の全面禁止

 まず,実際に名義貸しで保健医療機関停止を受けた病院に当時勤務していた手記の抜粋を紹介する.当時の現状と,厚生労働省の役人の頭の中と現実の乖離,また,政府の狙いというものが透けて見えてくる.

 医師名義貸し問題が北海道の医局,医療界を揺るがした.

 実現しそうもない医師標準数なるものを官僚が恣意的に設定し,全国の病院に一律にこれを適用するというような本末転倒を,建前論で止めておけば良いのに,遮二無二実現しようとして大混乱を招いたものだ.

 長年小生が一身を捧げて育て上げてきた○○病院も,名義で医師数をごまかし診療報酬を不正に得ていたとされ,保険医療機関指定を取り消された.

 現場で働く医師の気持ちは,「処分などもってのほか,田舎でこれだけ頑張っているのだから特別手当が付いても良い」ぐらいのものだった.

(中略)

 厚生労働省,ならびに政府は,「医療の質を上げるため」,などと,如何にも正しい方向を目指しているかのように見せかけて,実は地方切り捨ての医療費削減が真の目的と知れば,本当にはらわたが煮えかえる.

1)厚生労働省による病院の人的規制強化

病院にはそもそも医師は何人必要なのか,そのような施設基準というものがある.

 近年,厚生省はこのような病院の施設基準をどんどん厳しくしている.つまり,どの病院でも医師が必要になってきた.この規制強化ははっきり言って気違い沙汰のようにすら見える.厚生省の狙いは明かで,このような基準を満たせない病院には廃業してもらい,その分,医療費を浮かそう,という狙いである.

 この狙いは今,意外な方向に働いている.

 主に医局のジッツである,公的,準公的の大きな病院から,「普通」の病院へ勤める医師の流れが,今,加速しているのである.

 私が学生をしていたり,医師として駆け出しのころである1980年代の頃は,これから医師過剰時代となるため,そのような「普通」の病院に医師が充当されるので,公的,準公的の大きな病院から,「普通」の病院へ勤める医師の流れは,弱まる.そして,医局のジッツ病院も埋まり,我々の勤め先はなくなるか,かなり減るのではないかと考えられたが,むしろ最近,逆に加速した.
 病院がとにかく医師の数という施設基準を満たすために必死にならざるを得ないからである.これは厚生省が,結果的に医師の需要を喚起してしまったわけである.

 だから,医局や公的病院からそのような「普通」の病院へ行く医師の数も増え,逆に,主に医局のジッツであるような救急や高度医療を担う病院から医師がいなくなりつつある.
 (私が卒業する昭和62年頃は,「これから医師過剰時代になる.まず,上の人がある程度就職すると,就職先がなくなる.そうすると今度は医局のジッツにみんなは就職することになる.だから,ジッツを増やさなければならない」という考えが主流でしたが,今は逆の流れになりました.)

2.「名義貸し」の全面禁止

  また,先の手記にあるように「名義貸し」と言うものが全面的に禁止された.「名義貸し」に関しては正論をどーんと言われると何にも言えない.しかし,これを本当に行うと地域,特に僻地の病院が軒並み倒れるのは明らかであった.

 世の中に俗に言う「目こぼし」というものがある.まさか,「名義貸しが良い」とは誰も言えない.しかし,これは「目こぼし」であった.「言わずもがな」と言うものであった.これをそのまま行うと,地方から病院がなくなってしまうからである.しかし,マスコミが大きく取り上げ,名義を貸していた地方の病院をたたき続け潰してしまった.これは,地方の病院への死刑宣告であった.

 また,面白いことに,僻地に病院があるおかげで恩恵を被っている僻地に住んでいる人自身も,この「清水運動」に当時,荷担したようである.少なくとも,大きな反対意見は巻き起こらなかった.一寸法師が大きな鬼を退治するのは痛快な話である.弱い方を応援するという「判官贔屓」というものもある.このとき,まさに医師は,住民と敵対する強い大鬼であったのだろうか.そのような話に拍手喝采を送っていたとすれば,今思えば,病院がなくなって被害を受けているそのような地方の住人はまことに無邪気なことであった.

 名義貸し,と言う問題.これは突き詰めるとまことに不思議な問題なのである.病院で雇った職員が,医局で勉強しようと,外国で勉強しようとそれは病院の裁量権の範囲内なのである.妊娠して休んでいる,子育てのために休んでいる・・このようなことは,世間ではよくあることではないだろうか.このような職員に病院が給料を払っている.理想社会ではないだろうか.

 このとき,その様なことはけしからん,ということになった.勤務実態がないというのである.そのような場合は職員とは認めない,と言うことに急になった.それまでは,その様な形でも良いから医師を集めさえすれば職員として認められた(そのような形ででも集められない病院は,やっぱりダメ.それが当時のルールだった).それが,マスコミの先導と,それに煽られた世間の「清水運動」で一切ダメになった.

 これを皮切りにして,原因4, 5, 6が,重なり,今や北海道の町村から,国保病院などが,なくなりつつある.

 道も,町立病院,国保病院を整理して,その代わりに中核診療所(入院施設なし)を作る,という政策を大々的に打ち出してきた.つまり,僻地に住んでいる人は自分の町から入院施設の病院がなくなることで大損をすることになる.

 政府やマスコミの話に踊ってしまうと,今の時代,医療機関はその町から姿を消してしまう.とにかく,政府は病院をひとつでもなくしてしまいたい,と思っているのだ.

 もはや,自分たちの町の病院をどう守るか,住民一人一人が真剣に考えなくてはならない.

 病院とのつきあいも考えるべきである.よその家に,真夜中に行く人はいない.明日は仕事があるから,夜中のうちに用を足しておこうと言って,他の人の家を夜中に訪問する人はいない.

 これは病院だって同じなのである.よほど急に具合が悪くなれば,受診をすべきだが,そうでなければよその人のうちに行くように控えたり,また,昼間のうちに済ましてしまわなければならない.病院とのつきあい方を住民は考えるべきであろう.今までのように,明日は仕事があるから,夜中のうちに行っておこう,などと常識はずれなことをやっていると,まず,産婦人科,小児科がなくなり,あとはすべての科があっという間になくなる.

 本当に地域住民が自分の町の病院をどう守るか,住民一人一人が真剣に考え行動しなければならない時代である.


道内142病院 「中核」「診療所」に再編 過疎地域公立など 道が構想策定へ  
                              2006/08/29

 道は、赤字経営となっている道内過疎地の自治体病院を、地域ごとに総合的な医療を担う中核病院と初期医療を行う診療所などに再編する集約化構想の策定に着手する。すでに集約化方針を打ち出している産婦人科だけでなく、内科、外科を含む主要診療科目が対象で、29日に札幌で開く道医療対策協議会に報告する。今後、道と自治体、道内三大学病院でつくる同協議会の分科会で具体的な検討を進め、来年夏までにモデル案を作成する考えだ。


 道によると、道内の全615病院のうち自治体病院は107病院。このうち9割を占める市町村立病院は2004年度、7割以上が赤字で、経常赤字額は総額で百十四億円に上る。
 地方では経営問題と並んで医師不足も深刻で、道はこれらの解決のため、地域の医療機能の再編が必要と判断した。対象には自治体病院に日赤、北海道厚生農業協同組合連合会(厚生連)などの公的病院を加えた計142病院を想定している。


 現時点では、最少人口を三万人とすることなどを基準に道内自治体を約60に再編する道市町村合併推進構想や各地域の医療事情を基に、複数の自治体にまたがる集約化の範囲を決める方針。その範囲内で中核病院を一つ以上置き、他の既存病院は初期医療を担う小規模病院や診療所などとする。医療機関が充実している札幌や旭川などは構想から除外する方向だ。


 病院の集約化をめぐっては、道と根室管内の中標津、標津、別海、羅臼の四町が今年三月、中標津病院を中核病院とし、他の三町の病院は規模を縮小したり診療所にしたりする案を協議したが、合意に至らなかった。道はこうした事例も参考に、町村間の距離や各市町村の財政状況などを踏まえ、構想を具体化する。


 病院の集約化が進めば、総合病院がなくなる自治体や住民から反発が出るのは必至だが、道保健福祉部は「どこでも医療が受けられるのが理想だが、自治体破たんを防ぐためにも、集約化を進めざるを得ない」と話している。


 総務省は2005年4月、自治体の財政悪化や医師不足に対応するため、自治体病院の再編が必要とする通知を各都道府県に出している。

  
中締め:女子学生の増加.病院の施設基準の上昇で,実働する医師の数は2割減り,かつ,施設基準を満たすため医師の需要は高まった.徐々に公的,準公的な病院から人が少なくなっていった.名義貸しもダメになり,僻地の病院の存続は今や風前の灯火である.



    上図:名義貸し に関するマンガ 蝿太郎まんが美術館より(画面をクリック)

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