医師不足の淵源(その1)女子医学生の増加
 今日は,現在,深刻になった医師不足について考えてみることにする.

 6回にわたって記事をアップしていこうと思っている.

原因1:女子医学生の増加
原因2:厚生労働省の病院の人的規制と「名義貸し」の全面禁止
原因3:蛇足的な流れ・・・薬屋の接待の禁止,アルバイトの禁止
      まるで魅力がなくなった公的基幹病院勤務
原因4:「目こぼし」がなくなった.遠慮ない医者たたきの末に
原因5:訴訟,そして,医師敗訴の頻発
原因6:日本の医療システムへの原爆投下・・・臨床研修医制度の導入


 まず,戦後,一貫して医師の数は増えていったし,一県一医大となり,その流れは加速した.医局には毎年多くの医局員が入り,関連病院の数,ならびに,一つの病院に勤務する医師の数もどんどん増えていった.このような感じで増えていったら,自分らは一体どうなるんだ,と不安に思わせるほどであった(関連記事:今,撤退の時)

 イタリアでは医師免許を持ちながら働き場所がなくてタクシーの運転手をしている者もいるらしい,などと仲間と神妙に語っていた.

 実際私が10年目の頃(1995年頃),「10年目以上はフリーエージェントで,どこに就職したって良いぞ.おっ,お前は来年からフリーエージェントではないか.どうするんだ?」と,よく医局長が酒を飲んでは,当時プロ野球でできた「フリーエージェント制」をもじって医局員をおちょくりながら言っていた.つまり,「もうそろそろ医局を辞めたらどうか」という事なのである.
 言われた医局員は私も含めて,何よりも一番大事な自分の将来のことなので,「もうちょっと考えさせて下さい.もうちょっと医局に居させて下さいよ」と,酒の席ながらしどろもどろに答えていた.それをまた,この医局長は楽しんで酒の肴にして,酒を喰らっていた.


 


 しかし,その様子が2000年に入ってからちょっと変わってきたように思う.医局に人があまりいないようなのである.医師過剰時代を生きてきた私たちには当時にわかに信じられないことであったが,応援を要請しても誰も来る者がいないという.

 この原因が,今の医師不足の一つの原因である,女子医学生の増加である.


1)女子医学生の増加

 原因としては,女子医学生の数が一頃に比べ,大幅に増えた.そして,女医さんは結婚,出産を機に,引退したり,仕事量を減らしたりするものです.私の計算では一頃に比べ,実際に戦力となって働ける医師は2割減ったと思います.

 その根拠として,前に私が掲示板に書いた記事をそのまま引用する. また,当ホームページの掲示板に書き込みをして頂いた,関東の片田舎の医科大学で講師をしている「医大講師」さんの発言も使わせて頂いた.

女医の戦力化を阻害する新研修医制度 

           投稿者:医大講師 投稿日:2006/11/03(Fri)

A先生、Hpを興味深く拝見しました

 関東の片田舎の私大で講師をしているものです。「新研修医制度」では、例によってかなりのダメージを受け、回復傾向にあるものの以前の水準には程遠いのが現状です。

 「新研修医制度」によるダメージは特に女性研修医で大きいと思います。女医の教育は「医大卒業→出産の3〜8年間に効率的に一人前に育てる」のが「教育する側のコツ」だと私は考えているのですが、「初期研修という名の20代の2年間のモラトリアム」は女医にとっては「臨床医として一人前になり損なう」致命的なリスクをはらんでいるのです。

 そして医学生の4割は女性という時代になり、彼女らを効率的に戦力に育てなければ、日本の医療はもはや維持できないと考えています。

 でも具体的にどこから手をつければいいのでしょうね。先日も某女性研修医に「先生のお仕事ぶりは立派だと思いますが、卒後十年たったときに先生のような生活をしたくありません」と言われ、悩める今日この頃です。

【A企画の返信】

 こんばんは 医大の講師さん.当方のホームページを訪れていただき,ありがとうございます.

 この研修医制度が始まる前からも医師不足の話は聞こえていました.「医師過剰時代」といことが,私が学生の時から一貫して言われてきましたから,今更どうして,と思っていましたが,どうやらこの原因は,私の思うところ,女子学生の急増です.

 私が医学部を卒業した昭和62年.この時は女子学生は1割でした.今は3-4割ほどいるようですね.

 女子はどうしても結婚,出産というものがありますね.これは医師動員数という面ではマイナスであるが,仕方がないと思います.

【女医さんの戦力計算】

 ちょっと雑な計算ですが,女医さんの卒後の動向として,結婚しても独身で居てもフルに働く人は居ますし,結婚,出産で,働きはするものの,フルには働けないと言う人もいる.また,辞めてしまう人も居ます.


 戦力としては,男がみんなフルに働くとすれば,女子は総合して平均すると戦力として男子の半分くらいになるように思います(これは私の勝手な概算です).

 すると,例えば,私の頃で,100人が卒業するとして,そのうち男子が90人,女子が10人いるとすると,

 戦力(ポイント)= 90 + 10 x 0.5 = 95ポイント となる.

 一方,同様に,現在は女子が100人の卒業生の内40人いるとすると,

 戦力(ポイント)= 60 + 40 x 0.5 = 80ポイント となる.

  私の頃(昭和62年)に比べて,15ポイント,約2割弱少なくなっています.
 
 これを補うには,医学部の定員を2割増やすと,卒業生120人.女子4割とすると 男子72人,女子48人となる.戦力を求めると

 戦力(ポイント)= 72 + 48 x 0.5 = 96

 で,我々の頃と同じくらいになります.

 確かに医大講師さんのご指摘のように,初期研修で2年間,女医さんは無為に過ごすわけですから,成長が遅れます.これは痛いですね.この2年は痛いです.
 出産,結婚で休むことはやむを得ませんが,それまでにある程度鍛えておくと,いつでも使い物になる.しかし,発展途上で結婚,出産がぶつかると,その後医者をやるにしてもちょっと苦しいかもしれません.

 研修医制度はダメな制度ですよ.

 また,医学部定員の2割増加は本当に検討しなければならない課題だと思います.

 
 つまるところ,いわゆる救急やそれを担う,公的,準公的な大きな病院で実働部隊となって働ける働ける医師はだいたい,35-45歳くらいまでの医師です.この世代の医師が今,2割減ったと言うことである.これは痛い.
 でも,女子医学生の増加ということだけが医師不足の原因であれば,女医さんを上手に活用することを工夫したり,育児等で現場を離れていた女医さんが現場に戻れるように医局などで支援してあげれば,かなり改善できると思う.問題は,今の医師不足の原因はこれだけではないのである.

この他に,以下,2- 6がひしめいているのである.

原因2:厚生労働省の病院の人的規制と「名義貸し」の全面禁止
原因3:蛇足的な流れ・・・薬屋の接待の禁止,アルバイトの禁止
      まるで魅力がなくなった公的基幹病院勤務
原因4:「目こぼし」がなくなった.遠慮ない医者たたきの末に
原因5:訴訟,そして,医師敗訴の頻発
原因6:日本の医療システムへの原爆投下・・・臨床研修医制度の導入


追)念のため,申し上げておきますが,この記事は女子医学生や女医さんを非難するものではありませんし,その様な意図をもって記事を書いたつもりもありません.あくまでも,社会の一現象としてそれを捉え,それに分析を加えたものです.この記事を読んだ女子医学生が,負い目を持つ必要はまったくないし,また,医業を一時中断して家庭のことなどに専念している女医さんが,申し訳なく思う必要もない,ということを念のため申し上げておきます.
 医師不足の原因に関してはまだまだたくさんの大きな問題があります.それを引き続きアップしていく予定です.


【その後1:平成19年2月19日記】

しかし,まあ,政府はこのような考えのようです.政府には期待できませんね.安部さんに期待するものは何もありませんね.柳澤のとっつぁんはこの程度でしょう.はじめから何も期待していません.

医師抑制の閣議決定「見直しの必要なし」      柳澤厚労相

 柳澤伯夫厚生労働相は15日の参院厚生労働委員会で、継続的に「医学部定員の削減に取り組む」とした1997年の閣議決定について、「見直しの必要はない」と述べ、医師の総数を抑制する政府方針を変更する考えがないことを強調した。小池晃氏(共産)の質問に答えた。


 厚労省など3省は昨年8月、「新医師確保総合対策」をまとめ医師不足が著しい地域に限り医学部定員の増員を認めた。しかし、医師数を抑制する閣議決定に拘束されるため、増員相当の医師が地元に定着しなければ、逆に増員分を元の定員から削る仕組みになっている。


 小池氏は、地域医療の充実には抜本的な医師数の増員が不可欠と提案し、「この閣議決定の範囲内では抜本的な解決はできない」と見直しを迫った。


 しかし、柳澤厚労相は医師総数は毎年3500〜4000人が増えている状況にあると説明。その上で、「将来的には必要となる医師の数を上回って供給される見込み。
 このため現状で医学部の抜本的な定員増は必要ない」との考えを示し、「閣議決定の見直しも必要ないと考えている」と断言した。


平成19年2月16日 メディファクス  5105号

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