各論 A 日常勤務に対する待遇

 待遇となると,真っ先に「給料」のことが出てくるのだが,「給料」は,ほんの道標程度のもので,職を求める医師は大した注目はしていない.また,次に,「勤務時間」があるが,これはほんの挨拶代わり程度のものである.

 問題は,当直はどのくらい当たるか,また,当直中はどのくらい仕事をするものか,である.これは(C)の救急外来とも密接に関連する.また,そこまで言うと,職を求める医師にすれば,時間外手当はどのくらい認めてくれるのか,と聞きたくなるところであろう.最後に,アルバイトの可否,つまり,勤めながらアルバイトをしても良いかどうか,をタブー視せずに答えなくてはならない.


【当直】

 当直は,たとえ寝当直でも,35歳を過ぎた医師はいやがるものである.当直がいやで,病院を辞めてクリニックを開業したり,当直のない診療所に勤務したり,また,保険会社の社員になる医師は非常に多いものである.

 ところで当直は月にどのくらいまで出来るものであろうか.35歳以上の医師,ないし,卒後10年目以上の医師であれば,最大限,週に1回,月4回までと私は考える.

 医師もこのくらいの年齢になると,当直が嫌で嫌でしょうがなくなる.しかし,病院に勤めている以上,付き合いを考えて,1月に1 - 2回は我慢して当直をして やっているというのが彼らの本音である.当直数が3回,4回となると不満は鬱積してくる.そして,これ以上になると,医師という者は堪忍袋の緒が切れるというか,嫌気をさして,さっさと辞めていくという現実がある.時に,一斉大量辞職も起こり得る.

 病院の常勤医の数が減ってきて,当直の回数が増えてくるのは非常に危険なサインである.医師の当直回数が増えてきたら,早急に当直のためのアルバイト医師を捜し,常勤医への当直の負担の軽減に努めるしかない.当直をしてくれるアルバイト医師が見つからなかったら,当直明けは,12時間,ないし,24時間のフリーな時間を与える必要がある.これは万難を排してもやる必要があると思う.

 ちなみに,ここで言う当直とは,いわゆる「寝当直」のことである.救急外来日の当直は,後に記すが,「時間外労働」と呼ぶべきもので,「当直」とは呼ばない.

 当直 とは何か,労働基準法より引用してみよう.

当直(宿直) とは
一般的な許可基準は、次のとおりである。
・常態として、ほとんど労働する必要のない勤務で、原則として定時的巡視、電話の収受、非常事態に備えての待機等を目的とするものに限ること

・宿日直手当は、職種毎に、宿日直勤務に就く労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1を下回らないこと

・宿日直の回数は、原則として、日直については月1回、宿直については週1回を限度とすること

・宿直については、相当の睡眠設備を設けること

医師,看護師の宿日直勤務については、許可基準の細目が次のとおり定められている。
・通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること。すなわち通常の勤務態様が継続している場合は勤務から解放されたとはいえないから、その間は時間外労働として取り扱わなければならないこと

・夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告、あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を必要としない軽度の、又は短時問の業務に限ること

・夜間に十分睡眠がとれること

 この他に私見を付け加えるとすれば,一晩で5人以上,外来に来た患者を診なくてはならないようでは,それはもはや当直とは言わない.時間外労働と見るべきである.また,深夜帯(23時から翌朝5時)に,外来患者を診た場合には,その時間を労働時間と認め,時間外手当を払うようにするのが良いと思う.特筆大書したいのは,いわゆる病院勤務医が一番面白くないと感じるのは,いくら仕事をしても給料は同じだということである.小刻みに医師のしたことに対して評価し,病院勤務医の不満を軽減させることは,大変重要なことである.深夜帯(23時から翌朝5時)というキツイ時間に外来に来た患者を診たら積極的に評価していくのは,そのひとつの手である.


【時間外手当】

労働基準法より病院の一般事情に併せて改編して提示
19時から翌朝8時までを時間外労働に該当する時間とする(注:なぜ19時からか)

1)19時〜23時,および,翌朝5時から8時:医師の時間給(注)×1.25 が,その時間帯の時間給になる.

2)更に,23時〜翌朝5時(深夜労働):医師の時間給(注)×1.5 が,その時間帯の時間給になる.

 例えば,救急外来で,一晩中働いたとしよう.この時,一晩でいくらの時間外給を支払わなければならないか,計算してみよう.このことは,病院の管理者,事務方なら当然知っているはずであるが,今一度説明する.

医師の時間給とは

 その医師の月給が,税込み総支給額100万円だったとして(厳密には交通費,時間外手当を除く),法定労働時間というのは,1週間40時間と定められているので,1ヶ月160時間となる.(40時間×4週=160時間)

 100万÷160=6250・・・・これが,この医師のいわゆる「時給」になる.

 1)19時〜23時,および,翌朝5時から8時の6時間に対して,6250×7時間×1.25=54688円

 2)23時〜翌朝5時(深夜労働)に対して,6250×6時間×1.5=56250円

 *1)+2) 54688 + 56250 = 110938円  つまり,一晩で11万円近くの時間外労働費となる

 では,実際,救急外来の当直をして,徹夜で働くたびにこれだけのサラリーが支払われているかというと,今まではもちろん支払われてはいない.このような金額が支払われているというのを私は聞いたことがないし,自分もずいぶんと救急の時間外労働はやったものだが,こんな夢のような金額を支払ってもらったことはない.

 その法的根拠として,病院側としてあげるのが,「管理職には時間外手当を支払わなくて良い」というのがある.病院に勤めている医師は,幸か不幸か何らかの役が付いている.曰く「内科部長」「外科医長」「皮膚科科長」などなど.病院側に言わせると,「君は,循環器内科部長だから,管理者だから,時間外給は支払わなく良いんだよ」と言われたりもする.

 何か変だ.確かに役は貰っているが,「経営陣」と言われるほど,医師は経営にタッチはしていない.そもそも,管理者とは何か? と,徹夜続きの疲れた頭で医師は考えるだろう.

管理者 とは
 労働条件の決定や労務管理について経営者と一体の立場で企業経営にあたる者であり、この判断は名称にとらわれず実態に即して判断されます。具体的には、部長や工場長等労働時間の厳格な制限を受けず出退勤に自由裁量の権限があり、賃金等でもその地位に相応しい処遇がなされている必要があるとされています。

 やっぱり,徹夜で救急外来をした者に対しては,きちんと法に基づいて時間外手当を支給しなければならない.今までは,医局頼みの人海戦術でごまかしてやっていけたのであるが,これからはそうはいかない.無理に救急外来をやらせようとすると,あっという間に江別市立病院などのように大量の医師が一気に辞職していくことになりかねない.

 時代が変わったのだと言うことを,管理者側は理解しなければならない.

 真に,医師を求めたいのであれば,このようなことを進んで明示していく必要があろう.

  このような人件費を考えた上で,救急外来を続けるか,辞めるかを考え直す必要がある.

追加)とてもこれだけの時間外給を払えないとしたら,救急外来の当直の翌日は1日全日休みを与える必要がある.これにはもちろん医師当人の了解が必要だ.と言っても,ずるずると,病院で翌日も仕事があると言って働く医師がいるものである.病院側はこれに甘んじてはならない.甘んじていると,近いうちに必ず破綻する.「24時間は病院に来てはならない」とまで言って,病院側は医師の労働環境を守ってあげるべきである.

 頭を切り換えなければならない.新しい時代が来たのである.この波に乗ることの出来なかった病院は,医師の辞職が相次ぐようになり,壊滅していくことになろう.

注)【何時から時間外手当が発生するか】就業規則を見て,就業時間が9時から17時であれば,厳密に言えば17時から時間外は発生する.しかし,時間外を公正に管理するという点でこれはどうか.仕事が終わり医局でお茶を飲んだり馬鹿話をしたりするものだが,これを区別しようがない.ここでは,19時から時間外を付けた.19時にはすべてが終わっているのが通常だからである.19時以降の労働に関しては時間が手当を支給するのがよい.

 ただ,学会の準備や,調べもので居残ることに対しては,どうするか.これは仕事の時間を自由にできるものである.また,病院側としても公正に管理のしようがない.これに関しては支払う必要はないと私は考えている.

 しかし,時間外の患者の診療に対してはキチンと払うのがこれからの時代のやり方だと思う.


【研修日・アルバイト】

  働いている医師にとって魅力的に見えるのが,「研修日」の存在である.「研修日」とは,週の中の平日に一日,ないし半日休みを与えることである.これは病院に勤務する医師にとって非常に魅力的に見えるものなのである.その時に,他の病院に赴き,アルバイトをするのも良し,大学で研究をするのも良し,また,自由時間として使うのも,これはこの医師当人に任せるのがよい.

 このような「研修日」というものを,私は積極的に認めるべきだと思う.

 問題は複数人体制の科ならこのようなことをしても業務に問題はないが,一人体制の科の場合どうするか,ということが大きな問題となろう. しかし,このような場合にも,他の科の医師との連携を密にして,積極的にどの医師にも公平に取らせるべきだと思う.自分が研修日を取っていれば,一人科の他科の医師が研修日を取るためにきっと協力していくれるであろう.

 もちろん,一人科の医師が研修日を取る時には,その時間,外来はできないし,その科に関連した救急患者の受け入れはできない.これには,市や町の協力と理解が必要であることは言うまでもない.このようにしてやっていると,必ず文句を言う病院職員,地域住民が出てくるものだし,時に,市会議員や町会議員の先生が怒鳴り込んでくることもあるだろう.

 しかし,もう時代が変わったことをみんな理解する必要がある.医師は高い使命感を持っているが,所詮は人間.人間やっぱり睡眠も休養も必要だ.24時間 1年365日,常に備えていることは出来ない.ひとり科の場合,その科が起動していない時間があると言うことを理解すべきだ.いつでも大きな病院に行ったら診てもらえる,と考える方がおかしいのだ.

 今までは大学の医局から医師が派遣されていたが,2年前に研修医制度が始まって以来,医局の医師派遣能力は年々低下していくことはまちがいない.医局にはまったく期待できないと考えるべきだろう.また,研修医制度以来,北海道で医師をやる人間が半分くらいになってしまったのである.多くの医師が,東京,大阪などの大都会に集まっている.

 このような,未曾有の危機の時代・・・「研修日」を認め,医師が魅力を感じてくれるのなら安いものだと考えなくてはならないだろう.

 追)公務員なのでアルバイトは禁止・・・などと原則論を持ち出しているようでは,お先真っ暗,医師は誰も来ないだろう.その様な事を言っていると,ここ2−3年の内に,医療体制自体を維持できなくなり,老人病院か老健施設,老人ホームなどに転換することになろう.事態はそこまで切迫しているのだ.

研修日に対する考え方を2題

【研修日設定に係る給料の減額】

 研修日を1日認めた場合,週に8時間欠勤するのであるから,週労働時間を40時間と考え,給料を8/40減額するのは理にかなったことである.

 医師はプロ意識が強い人達である.自分が働いた者に対しては,評価しないと不満を持つが,このような研修日を取ることによる給料の減額は,大方のケースで受け入れてくれるものである.

【労働基準法からみる研修日】研修日のために減額というのは受け入れられないと言う人のために

 研修日は労働基準法では以下のように考える.労働基準法では「週の労働時間は1週間に40時間.また,1日9時間以上働かせてはならない」とある.40時間を超えて働くとき,あるいは,1日9時間を超えて働くとき,超過勤務手当が支給されて然るべきものなのである.

 とすれば,研修日のある人とない人の勤務時間は以下のように考えられる.

パターン1:研修日のない人

  月〜金:9時から18時まで勤務(1日8時間,昼休み1時間を除く)で,計40時間

パターン2:研修日のある人(木曜日が研修日)

  月・火・水・金:9時から19時まで勤務(1日9時間)で36時間.木・土・日に回診などで1時間20分勤務 : これで合計40時間

 したがって,パターン1の人は,土,日の回診に関しては,時間外給を請求できるが,パターン2の人は請求できない.

 しかし,今まで医師には時間外給が一般的に理由なく支払われていなかったので,研修日のある人が得をすることになった.

 これからは,労働基準法の点から考えて,お互いに貸し借りのない研修日を設定しよう.



当直時に救急外来で診療を行うと,追徴課税を喰らう(掲示板より)

無題 投稿者:暇人28号 投稿日:2007/05/16(Wed) 09:04:29 No.698
 
昨日から各ブログで話題となっていますが、当直は「夜間勤務」決定です。

市立3病院追徴税1187万円、宿・日直手当分で告知…長崎税務署


 長崎市病院局は14日、市民病院、成人病センター、野母崎病院の市立3病院で、医師の宿・日直手当など総額約3655万円について源泉徴収をせず、長崎税務署から約1187万円の追加徴収の告知を受けた、と発表した。同局は同日付で納付した。

 同局によると、国税庁の通達では、宿・日直勤務1回の手当のうち4000円は非課税となる。しかし、勤務中に医療行為を行った場合は、宿・日直勤務とみなされず、通常勤務として手当全額が課税対象となるが、同局は非課税扱いとしてきた。昨年8月以降、同税務署から調査を受けていた。

 調査の結果、2003年から4年間で、医師112人分、計約1059万円の徴収漏れが分かり、延滞税などを加えた約1187万円の追加徴収を求められた。同局が立て替えて納付し、今後、医師から個別に徴収するという。

 同局企画総務課の片岡研之課長は「通達の解釈が間違っていた。今後、是正する」と述べた。
(2007年5月15日 読売新聞)


お国がそう言い切ってくれました。



追徴金顛末 A企画 - 2007/05/16(Wed) 11:18:50 No.699
 
暇人28号さん 貴重な情報ありがとうございました.

 仔細に読んでみましたが,結局は医者が損をしたという話ですね.追徴金を取られた.
 自分が傷つかずに,害のないものから税金を巻き上げる.国税庁らしい姑息なやり方です.
 医者も害のある存在にならなくてはなりません.医者が裕福であれば,「施し」の精神でいろいろやることが出来た.このような追徴金も笑い話です.しかし,今や,医者はひーひー言って働かされている.たいした高給取りでもない.

 知らないことは罪・・・まさにそれを地で行ったようなこのたびの出来事だったと思います.

 医師にしてみれば,働くなくても良い当直で働いたばっかりに,追徴金まで取られてしまったという,泣き笑いのような出来事だったのだろうか.

 やはり,当直中に救急外来で患者を診たら,時間外手当をきちんと払ってもらわなくてはなりません.この一件で譲れないものとなりましたね.

算出方法 下記
 http://members3.jcom.home.ne.jp/3729975002/A.html

この件は「ある小児科医のつぶやき」の「当直と税金と勤務」の章に詳しく出ています.ご参考までに
 http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/



Re: 無題 暇人28号 - 2007/05/16(Wed) 12:23:11 No.701
 
管理人様:

勤務医にとっては、実は「朗報」だと思っています。実は私が今までに勤務していたすべての病院では、当直料は非課税扱いになっていませんでした。数ヶ月前に当直料は非課税扱いになると知り、友人の税理士、病院の顧問税理士に確認したところ、「いや、これは課税扱いなんだ」と言われて、理由が分からずショックを受けていました。


ここ数日の話を見ていて状況が飲み込めました。

当直は通常勤務で行うのとは異なる勤務をするものである。病院の当直は夜間外来の診察や病棟の急変に対応するため通常の職務と大差なく、当直に該当しないとの事。

だとすれば、夜間勤務(深夜勤務)であるということですよね。

病院での当直=夜間勤務(深夜勤務)≠通常の当直

ということであれば、
1 病院は当直料ではなく、夜勤の割り増し手当を払う必要がある。(多くの病院では、実はこちらのほうが報酬が増えるはず)
2 夜勤であれば、なおのこと翌日は休暇を与えなければいけない。

という図式になります。
さて、この決定に各病院、厚労省はどう出てくるのか見ものです。




Re: 無題 A企画 - 2007/05/16(Wed) 17:50:57 No.703
 
暇人28号 さんへ.お言葉ながらこれは「朗報」でも何でもないと私は思います.と言いますのは,もともと,労働基準法があって,当直とは寝当直であり,その間に急患を診るなどして働いたら,時間外手当が支払われるのです.これは当然のことだし,厚生労働省もこれに異を唱えてはいない.

 ただ,病院が払わなかった.医師が払ってもらえなかった.そして医師もこのことで,もめることもなかった(その理由は記事 師は,なぜ今まで時間外手当を要求しなかったのか? に自分なりに書きました).
 http://members3.jcom.home.ne.jp/3729975002/WhyJikangai.html

 しかし,そんな悠長なことを行っておられる時代ではなくなりました.医局に人が入らない故,自分の下に部下が来ることはもうなくなりました.また,訴訟がきつくなり,特に救急医療などは訴訟の温床のようなもので,そこで働く医師は本当に進退をかけて命がけで働かなければならなくなった.

 しかし,昔からの流れもあるし,公立病院はどこも赤字で,時間外労働を払う金なんかどこにもない.だから払わなかった.こんなことが許されるわけもないのだが..また,一方で医師の方もやっぱり昔からの流れで要求する人は少ない.これが一般職の人は必死で要求するものである.

 今回の出来事.医師も必死で請求しないと,脱税者になってしまうということでしょう.とにかく当直で救急外来の患者を診たら,きちんと請求する.必死で請求しなければならなくなりました.

 そのように,「ちゃんと時間外請求しろよ」と医師のケツを叩く,あるいは,「ちゃんと時間外手当を払えよ.そうでないと,お前の所の医者は脱税容疑者になるぞ」と病院側の怠慢を誅する,という意味では,朗報かとも思います.

 これを機に,請求するものは不退転の決意で請求する.病院側も必死で払う.払えないのなら,時間外の原因となる救急外来を辞める.それしかない.

 

目次  設立の目的  最近の医療情勢に対する解析  会社紹介  A企画へのアクセス  

           


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